00

石原健志

Takeshi ISHIHARA
大阪星光学院 中学校・高等学校 教諭
  • 1982年

    愛知県生まれ

  • 2004年

    京都外国語大学英米語学科 卒業

  • 2006年

    京都外国語大学大学院 英米語学専攻 修了

  • 2006年

    龍谷大学付属平安高等学校 常勤講師

  • 2009年

    大阪星光学院 中学校・高等学校教諭

  • 2023年

    神戸市外国語大学大学院 英語教育学専攻 修了

  • 2023年

    神戸市外国語大学大学院 博士後期課程 文化交流専攻 在籍

『ベーシックジーニアス 英和辞典 』第3版(2025) 単語ボード執筆

『ベーシックジーニアス 英和辞典 』第3版(2025) 単語ボード執筆

  • 1982

    愛知県生まれ

  • 2004

    京都外国語大学英米語学科 卒業

  • 2006

    京都外国語大学大学院 英米語学専攻 修了

  • 2006

    龍谷大学付属平安高等学校 常勤講師

  • 2009

    大阪星光学院 中学校・高等学校教諭

  • 2023

    神戸市外国語大学大学院 英語教育学専攻 修了

  • 2023

    神戸市外国語大学大学院 博士後期課程 文化交流専攻 在籍

01

Interview

インタビュー

2026.01.07 実施

  • 01.-

    英語学習と辞書(中学校・高等学校時代)

    英語の勉強はいつ始められましたか。

    アンサーアイコン

    ごく普通に中学校に入学してから学び始めました。『NEW HORIZON』を使っていたことを覚えています。愛知県の田舎に暮らしていて、外国人を見かけることも珍しく、海外は僕にとっては縁遠いものでした。「英語」に特別な興味を抱いているということもありませんでした。最初は、得意というよりも苦手でした。単語テストでは ‘friend’ を ‘frend’ と間違えていたくらいです。「自分の名前をローマ字で書く」というボーナス問題では ‘Takeshi’ を ‘Takushi’ と書いてボーナス点さえ落とす、という「何やってんの?!」状態でいたくショックを受けました。しかもこれは、単語の綴りをなかなか覚えられない生徒のために、単語を書く時には色を変えて何度も練習してごらん、まず鉛筆で書いて、次にボールペンの黒、その次は赤、その次は青、と先生が指導してくれて、その通りに忠実にノートに書いて練習したのにも関わらず、です。練習が足りていなかったせいだとは思うのですが、中学校1年生の僕は、これはやっても無理なんじゃないか、どうしたものか…と途方に暮れていましたね。

    そこから英語ができるようになるのに何かきっかけはあったのですか。

    アンサーアイコン

    何かわかりやすいきっかけがあったわけではなく、人の成長ってそういうものだと思うのですが、徐々に変わっていったように思います。自分の中で何かがガラリと変わったという認識はなかったです。中学校2年生は、一般的には過去形などのつまづきやすい文法項目が出てきて、かつ、思春期という心の発達の面でも難しい時期ですが、逆に英語はできるようになっていきました。それでも、たとえば、手紙を書くというアクティビティで、小学校の頃から公文や英語塾などで勉強を先取りしている同級生が、まだ「過去形」という言葉さえ授業では出てきていないのに、習ってもいない過去形を「使ってもいいですか?」と先生に質問をするのが僕は面白くなくて(笑)。「なんやそれ!」って釈然としない気持ちでした。優秀な手紙が読み上げられる中、僕が書いたものは綴りからして間違っていて、にっちもさっちも行かない。本物のエアメール用の封筒が配られたことだけが印象に残る。そんな感じでした。

     

    綴りに関しては、ある時、「ローマ字読みで書いたら書けるんちゃうかな。」と気づいて、Wednesday だったら「ウェドネスデイ」と書いてみると書ける。それで少しずつできるようになりました。それから、日本語の文を見て英語の文を書く、という練習をしている時に、二つの言語の語順の違いに気づいて、そこから間違えなくなりました。「私はテニスをします。」と ‘I play tennis.’ であれば、「私はしますテニスを。」と書けばいいんだ、と。今、振り返ると、「自分で」気がついたという点が大きいと思います。教える立場になってわかるのですが、英語が苦手な子は語順が異なることには気がつかないんですね。先生に教わるのはきっかけでしかなくて、その差異に「ああ、本当だ。」と自分で気づき、意識をして繰り返すうちに知識が自動化されていく。僕は文法が好きなのですが、ここにその種があったんだな、と振り返って思います。

     

    もう一つ、学びの上でわかりやすいエピソードがあります。ある時、学校にアメリカからケビン君という留学生が来たんです。市の交換留学制度を使って、カリフォルニアから来ていました。ケビン君が泳ぎたいというので、水泳部のキャプテンをしていた僕が案内をすることになりました。それまで、実際に英語を使ってコミュニケーションをするような機会は一切なく —僕が中学生の頃は ALT もまだいませんでした—これが初めての経験でした。プールに入る前に最初にすべきことは、まずシャワーを浴びることなんですね。でも、「シャワーを浴びていいよ。」って何て言ったらいいのかわからないわけです。シャワーを浴びるは take a shower でいいのですが「〜していいよ」がわからない。ここで初めて辞書を引くんですね。何をどう調べたのかは覚えていませんが、最終的に can の項目に「〜してよい」という相手に選択権を与える用法が載っていて、なんて便利なんだ!と思ったことを鮮明に覚えています。その時はまだ can は「〜できる」の意味だけでしか教科書に出てきていなかったので、辞書には教科書に載っていないことが書いてあるんだ、とも思いました。英語を使うこと、辞書を使うことの両方において、本質的な学びの瞬間でした。そこからせっせと辞書を引くようになりました。『アンカー英和辞典』です。

    高校ではどのように英語を勉強されていたのですか。

    アンサーアイコン

    英語を勉強するのは楽しく、会話よりも辞書を引きながら英文を読み解く方が好きでした。授業で扱うものや大学の入試問題を解くことが中心でした。平凡な成績の生徒だったので、当時は自分がやっている程度のことはみんなやっていると思っていたのですが、高校3年間で英和辞典を3冊買い換えています。最初に学校指定の辞書であった『ライトハウス英和辞典』、次に『アクティブジーニアス英和辞典』、そして『ジーニアス英和辞典』(第3版)です。まず箱がボロボロになって、ビニールのカバーがボロボロになって、綴じてある糸が切れて背表紙が剥がれてバラバラになって。そうなったら買い換える、と決めていました。最初の1年を待たずに『ライトハウス』がボロボロになり、記述としてもこれじゃ足りないと思い、自分で本屋へ行き、辞書を見比べて『アクティブジーニアス』を買ってきて、一人だけ違う辞書を使っていました。よくない生徒でしたね(笑)。しかも僕はボロボロになったのを捨てるのがいいと思っていたんですよ。車を乗り換えるみたいに。くそ生意気な生徒でしたね。神戸市外国語大学の野村和宏先生が、学生時代に辞書を引いた時にどのページを開いても必ず線が引いてあるかどうかを友達と勝負をしていた、という武勇伝を語ってくださったことがあるのですが、僕もやってるんですよね、自分一人で(笑)。どのページを開いてもラインマーカーが引かれていないと気が済まない。これを誰でもやっていると思っていたのが、今になると間違っている(笑)のですが。

  • 02.-

    大学での学びと辞書

    外国部学部で英語を学ぶことにしたのはなぜですか。

    アンサーアイコン

    英語の勉強は好きでしたが、そこまで明確な目的があったわけでもなく、なんとなく英語の先生になりたいと思っていたのかと思います。あとは、家を出たい、どうせなら都会に行きたい、という気持ちもありました。経済学部にも合格していたのですが、得意な英語で合格したものの、入学後に数学を勉強するのはちょっと難しそうだなと思って、京都市外国語大学の外国語学部に進学することにしました。あまり明確な目的はありませんでした。

    「なんとなく」とおっしゃいましたが、学部生の時に留学までされているのですよね。

    アンサーアイコン

    外大に行ったら留学くらいするだろう、という勝手な思い込みがありました(笑)。さらに、お金を出せば留学には行けるけれど、学内の奨学金を勝ち取って行かないと意味がない、とも。今もまだあるのかわかりませんが、大学が学費、寮費を支払ってくれて、PCなど勉強に必要なものを買う支度金50万円までくれる奨学金制度がありました。本当はアメリカに行きたかったんですけど、TOEFLのスコアが間に合わなくて、マンチェスターの近くにある、キール大学(Keele University)に行きました。2回生の秋から1年です。教育学部に入って、向こうの学生と肩を並べて勉強しました。イギリスの学生はすでに基本的な内容を終えていて、日本でいうと M1で学ぶような専門性の高い授業を受けていたので、もうとにかく大変で必死に勉強しました。

     

    ちょうどカシオの電子辞書 EX-word が出てきて、「これなら実用に足る」と思う程度にまで電子辞書が進化してきた頃だったので、これで紙の辞書を持ち歩かなくて済む!とイギリスにも持って行きました。ただ、大辞典が収録されていなかったので、英和辞典には載っていない単語も多く、イギリスに行ってから Longman Dictionary of Contemporary English を買いました。課題で指定された本が1850年代のものだったりすることもあり、英英辞典がないと読めませんでした。

    京都外大における学びについて教えてください。

    アンサーアイコン

    3年生の夏にイギリスから日本に帰ってきて、3年の後期からたまたま取った授業で、僕のその後を変える二人の先生方に出会いました。赤野一郎先生(京都外国語大学名誉教授)と現在学長を務められている小野隆啓先生です。小野先生のゼミに入り、生成文法を学びました。課題として出されたラドフォードの入門書を辞書を片手に通読したのですが、とにかく面白くて達成感があって、生成文法にはまっていきました。特に、イギリスで教育学を勉強していた時に、教育心理学の分野では、ピアジェやヴィゴツキーによる認知的・社会文化的発達理論が提示される一方で、20世紀半ばには行動主義が学習理論として大きな影響力を持っていたのを、チョムスキーが生成文法を通じて学習観に根本的な転換をもたらしたということを学んでいたので、より面白く感じたのかもしれません。

     

    赤野先生に出会った時も衝撃で、自分のダメさ加減を思い知りました。赤野先生には、文学を読みなさい、ペーパーバックを読みなさい、と言われましたが、当時は日本語でも小説を読まなかった人間で、名作だろうがなんだろうか何も知らない無教養な学生でした。ちょうど『ウィズダム英和辞典』の初版(2003)が出版された頃だったんじゃないかと思うのですが、授業で『ジーニアス』と『ウィズダム』の記述を比較して延々と説明をされていて、「なんだこれ!こんなところに注目をする人がいるの!」と驚きました。辞書をボロボロになるまで使っていても、優秀な人たちと一緒に勉強会をするタイプの学生ではなく、全部一人で勉強していたので「引き比べる」という発想がありませんでした。赤野先生には大学院でもご指導をいただきました。

    大学院へ進学されたのは教員になることを意識されてのことですか。

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    生成文法に出会って、英語という言語についてより深く考えるようになりました。僕らが受けてきた英語教育では、たとえば、能動態を受動態に書き換えなさい、第3文型を第4文型に書き換えなさい、という穴埋めや変換の問題をひたすら解かされてきたわけですが、そもそもそれぞれの文が持つニュアンスや、「なぜ」そのように形を変えるのかといった理由があるわけで、そういったことを教員になる前に知っておいた方がいいと思いました。

     

    また、小野先生も赤野先生も、立派な学者でかつ、学生を鼓舞するのが上手な教育者でもあったと思います。それで京都外大の大学院で学び続けたいと思いました。小野先生には、他大学への進学も勧められましたが、習いたい先生に習いたいんです、とお伝えして。それでも先生は首を傾げていらっしゃいましたが(笑)。M2の夏(2005年)には、LSA(Linguistic Society of America アメリカ言語学会)のフォーラムがMITで開かれ、チョムスキーが講義をするというので、小野先生に「石原君、行ったら。」とおっしゃっていただいてボストンへも行きました。

  • 03.-

    英語教師としてのキャリアと学習参考書・辞書

    修士課程を終えて英語教員としてのキャリアがスタートしたのですね。

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    最初の3年間常勤として勤務した学校は、勉強の苦手な生徒たちがいるところで、教員として非常に勉強になりました。英語を一生懸命勉強して、専門領域にも少し足を踏み入れた、という人間が、英語というか勉強自体に興味のない生徒たちと接するわけです。いわゆる「やんちゃな」子たちです。小学校の時に野球で世界大会に出場するも肩を壊して挫折、そして不良の道へ、という子が、試験でカンニングをしているのを見つけて注意をすると、うるせえこと言ってんじゃねぇ、と胸ぐらを掴まれて体が宙に浮くという経験もしました(笑)。

     

    当時の英語主任の先生が熱心な良い先生で、そういった生徒たちにいかに勉強に興味を持たせ、言うことを聞かせるのかを徹底的に教えてくださいました。授業の前に、その下準備として、なぜ学ばなければならないのかを教えることの大切さを教わりました。「お前、英語なんてやるもんやと思ってるやろ。」「違うんですか。」「違うに決まってるやろ。雨なんか降ったら学校なんて来たくなくなるもんなんや。」「ええ〜。」と。教員は、生徒だった時の自分を基準にしてしまうと、遅刻をしない生徒であったら遅刻をしてくる生徒の気持ちがわからない。なぜ遅れてくるのかをきちんと考えてあげないといけないということを教わりました。

    大阪星光学院という超一流の進学校にご活躍の場を移されたのはどうしてですか。

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    せっかくだから自分が学んだことを還元できる方が役に立てるのではないかと思いました。最初の学校は、職員室で本を読んでいると怒られる環境だったんですね。本を読む暇があるなら生徒を指導しろ。教員として知識を広げるよりも生徒の中に飛び込め。そしてそれが評価される場所でした。それも一つのあり方だとは思いますが、自分にとってはどうだろうか、と。それでダメ元で何校か公募に申し込んだ中で、現在の職場にご縁をいただきました。

    大阪星光学院の6年間担当持ち上がりというのは、教員にとってはやりがいがあると同時に相当なプレッシャーにもなるのではないでしょうか。

    アンサーアイコン

    そうですね。本当にその通りです。すべて自分に跳ね返ってきます。英語はできないどころか嫌いになる生徒もいますので。中1から高3まで本当にずっと一緒なんですよ。授業だけでなく部活動の付き添いや夏休みの補習もしますから。よく、高校の先生が「中学校では一体何を教えているんだ」とか、大学の先生でも「高校では文法をちゃんと教えていないのか」とか、そういう現象があると思うんですけど、全部自分でやっているから(笑)自分がやったかどうかだけの問題になってくるので、英語学習に必要なことをきちんと考えて組み立てていかなくてはいけないと思っています。

    教員をしながら大学院(博士課程)で学ぼうとお考えになったのはなぜですか。

    アンサーアイコン

    英語学習に必要なことを生徒に伝える上で「根拠」が必要ですよね。「僕が」そう思ったから、というのではあまりに無責任だなと思って、言語習得に学問的興味を持つようになりました。また、僕自身のアカデミアへの強い憧れもありますし、教える生徒たちにもものすごく賢い生徒がたくさんいるんですね。どのくらい賢いかというと、東京大学で院生の時に過去38年未解決だった物理学の問題を解決したとか、そういうレベルなんです。そういう子たちを教えていると思うと、「僕がこう思うから」という根拠だけでは、ふざけんなよ、と自分に対して思うわけです。

     

    参考書に関しても、間違ったことが書かれているものがたくさんありますが、そういうものを子どもたちに与えるのではなく、専門家の目から見ても正しいことが書かれているものを提供したいし、それが大人としての責務だと考えています。参考書を執筆する際にも、その点は強く意識しています。その時に何が必要になってくるかというと、辞書の情報なんです。もちろん専門書も読みますが、専門書に書かれている内容と実際の授業の間には乖離がありますよね。そこに辞書がぴったりはまるんです。新しい辞書には最新の知見が学習者にもわかるように書かれているので、専門的な内容を辞書を経て、参考書へと落とし込んでいく感じです。

    参考書もこれぞというものがないからご自身で書こう、と思われたのですか。

    アンサーアイコン

    いわゆる予備校の先生が書いている参考書にはどうしても理論的に気になるところがあったり、大学の先生が書いているものだと、実際に生徒たちがつまづくのはそこじゃないと思うところがあったりしたので、自分が教えてきた経験の中で、何度教えてもうまくいかないことをちゃんとした知識を持って説明をする、ということをしたいと思いました。

    授業ではどのような辞書指導をされていますか。 

    アンサーアイコン

    『エースクラウン英和辞典』を一括で購入してもらっています。『ベーシックジーニアス』を自分で買ってくる子も半数くらいいます。そして、毎回の授業で1回は必ず辞書を引く機会を設けています。こういう話をすると、必ず「どの単語を引く?」と聞かれます。辞書を「意味調べのために引く」と捉えていると、辞書は時代遅れ、ネットで調べたりAIに聞いた方が早い、ということになってしまうんです。辞書を引かせるのは、知っている「つもり」の単語です。必ず発見があるから引きなさい、と言っています。たとえば、many を引けば、肯定文ではあまり使用しないという語法記述があります。こうした情報を用いて、中学生と英検の英作文問題の練習をする時に、 ここでは ‘a lot of’ を使用する方が自然に響くだろうか、などと生徒と一緒に考えます。指導の際には、黒板に辞書アプリの画面を投影して情報を共有しています。

    先生は生徒に辞書を引かせたらページ数の確認までされていることを以前の講演で知り、丁寧な指導をされているのだな、と思いました。

    アンサーアイコン

    ページ数の確認は、どの生徒も取り残さないようにするためにしています。やはり辞書を引くスピードには個人差があります。ページ数を確認しないと、引けないまま終わってしまう生徒が出てきてしまう、回数を重ねていくうちに落ちこぼれてしまうということを防ぎます。どの情報がどこに載っているのかを体感することを積み重ねて欲しいと思っています。

     

    初期指導においては、知識の出どころ、知識の重さを分かった上で、情報を扱うことを教えることが大切だと思います。AIだとどこからその情報を取ってきたのかがわからないですよね。正確性は上がってきましたが、その回答を出してくる背景にどのくらいの量のどういった知識が存在するのかを知らないまま、回答だけを与えられ続ける。そうすると、何でも簡単にわかっちゃうと思ってしまう。勉強って本来そういうものではないですよね。調べて調べてやっと答えに辿りつける、という学習経験がないと、AIを便利だとも思わない。そして、便利だと感じないことの何が問題かというと、AIでさえも結局使わなくなると思うんです。なぜなら便利だと思わないから。ありがたみがわからないから。便利なツールを「使わなくなる」ということは、指導者側からしたら避けたいことです。大した学習習慣を持たない人は、学習のために使わないでしょうから。便利だと実感するための学習経験を辞書を通じて積ませてあげたい。調べることの大切さを伝えていくことが我々の仕事なのではないかと思います。

  • 04.-

    『ベーシックジーニアス英和辞典』第3版(2025)の仕事

    『ベーシックジーニアス英和辞典』第3版の「単語ボード」執筆に至るにはどのような経緯があったのですか。

    アンサーアイコン

    大修館の編集部から声をかけていただきました。受験英語をバージョンアップする ―ずっと使える英語力への15 の Tips―」(開拓社)を出版後に、文法指導の記事を大修館の『英語教育』に書いたのですが、その中で、こうした情報は専門書を読まなくても辞書に書いてありますよ、ということを書いたんですよね。それに目を止めた編集者から、辞書そのものについて書きませんか、とお話をいただき、さらにそこから、ちょうど『ベーシックジーニアス』が改訂のタイミングであったということもあり、辞書そのものへとつながりました。多分、辞書が好きなことが記事から滲み出ていたのだと思います。 

    「単語ボード」のお仕事について教えてください。

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    「単語ボード」は項目の選定、執筆、イラストの指示書きまですべて行いました。最終的に46項目になりましたが、50〜60項目は選定したと思います。

    イラストが秀逸だと思ったのですが、やはり指示をしっかり出していたのですね。

    アンサーアイコン

    コアイメージのイラストの指示書きはかなり詳細に書きました。put はナポレオンの戴冠式の絵のようにしてください、といった具合です。それは学習者に振り向いてもらうためです。辞書のイメージイラストは、好みの話ではなく、学習者、特に中学生の視点で見た時に本当に内容を正確に理解できるものですか?と疑問に思うものが多いこともあり、この点は非常にこだわりました。実際に生徒に辞書を引かせた時のリアクションを見ても、聞いみても「わかりません。」と返ってくることがあったので。生徒がもっと見たいと感じるようなものにしたいと思いました。イラストレーターの央己あゆりさんのセンスも良くて、その後の仕事でもご一緒させていただいています。

    break のリスが胡桃を必死に叩き割っているイラストには笑ってしまいましたが、イメージが強く残ると思いました。

    アンサーアイコン

    それ!生徒にも「リスのやつ」っていうと「リスのやつか!」って思い出すんですよね。辞書のプロは何でも最小限で収めようとする傾向があると思います。そしてそこから演繹的に考えさせようとする。それに比べると単語ボードの紙面は冗長に見えると思うんですよね。でも、冗長性があった方が学習者の頭には残りやすいということを日々の中で感じます。親版の『ジーニアス』にはそぐわなくても、より学習用の『ベーシックジーニアス』においてはこういう工夫があってもいいのではないかと思いました。イラストは解釈が多様になり、誤解される可能性があると心配されましたし、記号で示した方が「正しく」示せるという考え方もあると思います。でも、書き手側が正しく示すことができたと思っていても、読み手が理解できなければ意味がありません。読み手がわかるように、を徹底しました。

    「単語ボード」の項目の中で一番気に入っているものを教えてください。

    アンサーアイコン

    コアイメージのイラストでいうと keep です。こういった漫画的な表現の仕方は類書にはないと思いますし、生徒のウケもいいです。内容でいうと line です。この多義性は、書いていても楽しかったです。選んだ表現は、生徒も迷うし、大人になってから使うようなものだと思います。僕は過去25年分の大学入試問題のデータを持っているので、それを AntConc で調べて、頻度と難易度を考慮に入れて取り上げる表現を選択しています。基本を抑えるページですが、簡単ではないと思います。

    どれも素晴らしいですが、私が一番感動したのは as のコアイメージのページです。このページのまとめ方やイラストのアイディアはどのように創り上げたのですか。

    アンサーアイコン

    英語語義イメージ辞典』(2002)などを引きまくって as のイメージを固めた上で、それを記号で表すのではなく、どう表現をしたらいいのかをひたすら考えました。本質的なことではありませんが、動物をモチーフにしたイラストは批判の対象になりにくい、ということがあるので、動物のイラストで「釣り合っている」という状態を表すとしたら、と考えて辿りつきました。教室でも「象のイラスト!」というと生徒はすぐに思い出すことができます。記憶から呼び起こしやすいというのも大切なポイントです。

    イラストだけでいうと with が好きです。私の好きなものが詰まっている(笑)。

    アンサーアイコン

    ありがとうございます。細かく見ていただくと、犬や猫だけでなく、ポシェットやポーチなどを身につけていて、これも with のイメージ「一緒にいる・同伴する」を強化するものだと思っています。イラストの登場人物もすべて設定してあって、ストーリーも出来上がっていて、その中の一コマが切り取られている、という仕立てになっています。

  • 05.-

    英和辞典の今後

    英語学習における辞書のあり方についてはどのようにお考えになっていますか。

    アンサーアイコン

    まず、中高における辞書の使用状況が、危機的であることをみんなで共有したいと思っています。『辞書で身につく本当の英語力』(大修館書店)は、その思いを伝えるべく書きました。そんなことまったく心配していない、という大学の先生もいるようですが、中高の先生の話を聞くと、危機感を覚えます。なぜか辞書は時代遅れの産物だとか、単語帳で勉強させる方がタイパがいい、という声があります。予備校の先生からは、授業で「辞書を引こうね。」と言ったら、学校の先生は辞書なんて引くなって言ってたのに、とクレームがアンケートに書かれていたそうです。その話を聞いて、多くの単語帳にある語法情報は間違いだらけだったり、何かの引き写しだったりするので、それをあたかも正しい情報であるかのように生徒に勧めるのはよくないと思いますし、発信する側の教員も生徒がどのように自分たちの言葉を受け止めるのかをもう少しよく考えた方がいいと思いました。新刊では、至極当たり前のことを書いているつもりなのですが、当たり前だと思っていることを書いていかないといけないと思うようになりました。リスニングにおいて辞書をどう活用するか、というようなちょっと難しいお題もあったのですが、僕たちは知らない単語を聞いた時に、音を頼りに一生懸命辞書で調べるという経験を持っていると思います。ただ、そういった指導を受けたかというとそうではない。音だけを聞いて辞書を引くトレーニングなども提唱しています。辞書を否定する人たちには、あらゆる角度から辞書を実際に使ってみてから、その良し悪しを学習者に語って欲しいです。

    今後、英和辞典はどのようになるとお考えですか。

    アンサーアイコン

    5、6年くらい前までは辞書が完全に電子化されて、無限のデータベースのようになり、誤りがすぐに修正されるのが理想の形だと思っていました。その頃、赤野先生のお話を聞く機会があったのですが、「今後の辞書の姿はどうなると思いますか。」という質問に対して先生は、「変わりません。(紙幅に)制限がある状態が辞書なんです。」とおっしゃっていて、当時の僕はそんなことはないだろうと思っていました。けれども、生成AIが出てきてから考えが変わりました。辞書を電子的に広げていったとしても、生成AIに勝てるわけがない。辞書の姿としては紙ベースで、範囲が限られた中に、ある程度辞書編纂者たちの主観、勘所を入れていく。取捨選択した情報を入れる。むしろ現在のこの辞書の形をキープしていった方が辞書のアイデンティティが守られるように思います。

     

    最近、ghost という単語がスラングとして新しい意味で使われるようになった、というのをネット上で知りました。SNSでやり取りをしている相手を突如ブロックしてコミュニケーションを遮断する時に使う。この新しい使い方が『ジーニアス英和辞典』第6版(2023)には載っているんですよね。すごいなと思いました。『ウィズダム英和辞典』の第4版(2019)には載っていないので、これはきっと改訂の時期が理由だと思います。この違いが紙の辞書の意味でもあると思います。こうしたことは人間の営みとして残ってほしい、なくなってはいけないと思います。一方、上級者ではなく、一般的な生徒や学生には『エースクラウン英和辞典』や『ベーシックジーニアス英和辞典』のような日本語を母語とする学習者にとって必要で有用な情報が端的に示されているものを丁寧に使うことを勧めたいと思います。

    • -ghost

      (❷ ((略式)) …との一切の連絡を急に断つ)

02

06.-

インタビューを終えて

 石原先生とは —ご講演は拝聴したことはありましたが— 面識はありませんでした。先生の新刊『辞書で身につく本当の英語力』の刊行記念オンラインセミナーに申し込み、そのことについて X につぶやいたところ、驚いたことにご本人がご覧になってくださり、さらにはこのサイトを読んでくださっているとのコメントまでいただきました。図々しさにおいては少しばかり自信のある私は、ここぞとばかりにご登壇を依頼し、年末年始も無視したご連絡に快く(?)ご対応いただき、最速でのインタヴューの実施・掲載の運びとなりました。これがシゴデキ x 若さであるとヒシヒシと感じました。
 正直に申し上げると、超一流進学校で英語教師をしながら、ご研究もされ、参考書類をたくさん執筆されるような優秀な先生に相手にしてもらえるのだろうか…途中で「あなたそれでも大学で英語を教えているんですか」と冷笑されて話が終わってしまったらどうしよう…という不安がなかったわけではありません。
 しかし、さすが本物の先生です。お話が上手で聞き手に対するサービス精神に溢れています。できない子のことも見捨てません。そして、何より嬉しかったのが、最近は辞書の話をするとどうにも暗くなりがちな中、中高の現場での危機的な状況を語りながらも、子どもたちに良いものを届けたいという純粋で熱い思いを語る先生がキラキラしていて、希望を感じられたことです。これまでの当たり前に疑問を呈し、自らの手で教材、書籍を生み出し、新しい辞書の時代を切り拓いて行かれる。なんと頼もしい!と隠居したくなりますが、私ももう少し頑張りたいと思います。